― 交差的なマイノリティの体験を当事者目線で理解する ―

自閉スペクトラムと、多様なジェンダーが重なっているベン図

放送大学大学院修士課程の高橋遊は、自閉スペクトラム(注1)で多様なジェンダー(注2)の日本の人たちを対象に、日々の体験や困難を当事者目線で調べるための質的調査を実施しました。本研究は、これまで欧米が中心だった自閉スペクトラムと性的マイノリティの交差性研究(注3)に、新たに日本からの知見を付け加えるものです。自閉スペクトラムおよび性的マイノリティに対する偏見が根強い日本において、社会的な障壁を減らし、交差的なマイノリティにとって生きやすい環境を構築するための指針となることが期待されます。

本研究成果は、2026年7月15日、国際学術誌 Autism in Adulthood で公開されました。

(論文はこちら:https://doi.org/10.1177/25739581261467967 )

■研究の背景

自閉スペクトラムの人たちは、高い割合でトランスジェンダーやノンバイナリーなどの性的マイノリティであることが知られています。そのように複数のマイノリティ性が重なる場合、当事者は社会の中で強い困難や生きづらさを体験する可能性があります。しかし日本では、こうした交差的な体験を当事者目線で理解するための研究が不足していました。

■研究内容と成果

自閉スペクトラムで多様なジェンダーの日本の成人44人(19-62歳)を対象にした質的調査の結果、アイデンティティにまつわる体験や困難について様々な語りが得られました。これらの語りは、以下の3つのテーマに集約されました。

①自分らしさ vs. 同調圧力

自閉についてもジェンダーについても自分らしく生きたいという思いが強い一方で、社会の同調圧力により本当の自分を隠さなくてはならない葛藤が語られました。

②どこにも居場所がない

交差的なマイノリティであるために、誰からも理解されず、深い孤独を感じていることがわかりました。また環境的な障壁のせいで、社会参加が難しい場面も示されました。

③〈個人〉と〈政治〉のアンビバレンス

日々の困難について、「自分ができないのが悪いんだ」という個人的な解釈と、「社会が画一的な期待を押しつけてくるからだ」などの政治的な解釈の両方が混在していました。

このように当事者は、強い孤独や葛藤を感じていました。同時に、交差的なマイノリティの体験が、よりよい社会を目指すための原動力にもなりうることが示唆されました。

■今後の展望

本研究は、日本における自閉スペクトラムとジェンダー多様性の重なりを理解するための一歩となります。当事者は同調圧力や周囲の無理解により、様々な困難を体験していました。自閉スペクトラムと性的マイノリティについて、周囲の人々や支援者が理解を深めていく必要があります。また本研究は当事者の声を中心に置き、研究者自身も当事者の立場でおこなったものです。今後も当事者を尊重した研究により、交差的なマイノリティの人たちのウェルビーイングを高めることに貢献していきたいです。

■用語解説

(注1) 自閉スペクトラム:本研究では海外の研究慣行に倣い、自閉スペクトラム症(ASD)の診断を受けている人だけでなく、自身を自閉スペクトラムであると認識している人も研究参加者に含めた。